―epilogue―
「クッソ…宿題終わんねぇ!」
――最後まで溜め込むなんて…まだまだショウタも子供だね。
「…"カゲ"のお前に言われたくないな」
――ふんっ!"カゲ"に言われてるショウタが悪いんだよっ!
「ちぇ」
八月三十一日。
夏休み最終日に僕は自分の机に向かっていた。
英語のワーク。
古典の単語帳。
数学の問題集。
実力テストのワーク。
さらに地理のレポート。
…宿題が終わらない。
「何でだ…いつもは七月中に終わってたのに」
――えらい違いだね。
「ユタ、さっきから仰ぐのがが止まってるけど…」
――えっ?
――いや…もう十分涼しいかなって…思って…。
「いや暑いから…運動も兼ねて羽動かせよ」
――もう…これ結構疲れるんだからね…!
「はいはい」
僕とユタはあのあとから随分仲良くなった。
まだ拓也には嫌われているみたいだけど、徐々にクラスメートから誤解は解けていってる。
皆"カゲ"は怪物だと思っていたらしい。
前は僕もそう思っていたから、絵に描いて見せると驚いていた。
案外「可愛い」とか言う人もいて、僕はビックリだったのだが…。
――あ、またボク描いてる…。
――というかボク、もっと羽おっきいからね!!
「いやこんなもんだろ」
――むぅ…こんなマヌケじゃないはずだもん…。
古典のワークの隅に描いてあった絵を見て、ユタはムスっとした。
それから僕は紙切れを見付けては、ユタを描いていた。
描くことが楽しかったのだ。
この前ユタが言ってた「やってて楽しいこと」で、これが夢に繋がるのかもしれないと思う。
でも大分狭き門だよな…。
「よっし!あとはこの三冊だけだ!」
――まだ三冊も残ってるの!?
――・・・ボクいつまで仰げばいいの~!
「ははっ…じゃあ昨日買ったリンゴでも食べてからやるか」
――わぁい!リンゴってあの赤いやつだよね!!
――そうしよう!休憩してから頑張れば、きっとすぐ終わるよ!
「お前リンゴ食いたいだけだろ」
――・・・何で分かるかなぁ。
「そりゃ分かるだろ…」
ユタがプッと吹き出したので、僕もつられて笑ってしまった。
――ショウタ。
「ん?」
――最近笑うようになったね。
「え、いや…そうか?」
――うん。前はお地蔵さんみたいな顔してたのに。
「その言い方はないだろ!リンゴやんねえぞ!」
――あーずるいずるい!リンゴは食べる!
「ホント、リンゴ好きだな…。はいはい分かったよ、今取りに行って来るから」
――ありがと、ショウタ!
「ちぇ…都合のいいヤツだな…」
――ん?何か言った?
「…いや?」
――あ、そうなの?なら良かった。
一通り机の上の宿題を横にやり、スペースを作る。
そのまま椅子から立ち上がった。
「じゃあ扇風機つけといて」
――え・・・あれも大変なんだよ!
「あれマスターしたら足が長くなるかもしれないぞ」
――や、やろうかな…羽動かすの疲れたし!
…つくづく使えるヤツだ。
「じゃあそこで待ってろよ」
僕は部屋のドアを開けた。
―END―