人間習得。
―1―
「よっ!"カゲツキ"祥太!!」
「…」
「今日もシカトかぁ~?」
「…うるさい」
「おおっ怖っ」
「…」
放課後の玄関。そこにはまた人だかりが出来ていた。
僕が一歩踏み出すと、群れも動く。
僕を避けて。
「ホラホラ、氷の貴公子がお帰りだぜ~!」
「道を開けてやれよー」
「…」
靴箱を開けると、沢山の紙屑が舞う。
クスクスと笑い声が背後から聞こえた。
そんなの気にしないというように、僕はスニーカーを取り出す。
そして紙屑を全て出し、上履きを入れる。
まったく、これを掃除する暇あったら帰れよ。
僕は玄関を後にする。
…いや、後にする「つもり」だった。
「祥太くぅん~」
「…何か用?」
不意に右肩に手が置かれる。
振り向くと、同じクラスの内田が立っていた。
二学年のトップと言っても過言ではないチャラ男だ。
金髪に染めた髪は、ワックスではねている。
耳には数十個のピアス。
意地の悪そうな狐目がこちらを見ていた。
「ねね、こんなことされて嫌じゃない?」
「…」
「もしやめてほしかったら、ハイ」
「は…?」
内田のでかい手がこちらに突き出された。
僕は跡がついてしまった眉間にシワを寄せる。
お手とかそういうこと言うんじゃないんだろうな…。
僕がいつもの仏頂面で見返すと、内田は犬歯を見せて笑った。
「だからぁ…カンパ」
「は?」
「金出したら、やめてやるって言ってんの」
ふざけんじゃねぇよ。
「あ?何か言ったか?」
思ってることが口出るってこういう事か。
「ふざんじゃねぇよ。何でお前らに金払わなきゃなんねぇんだよ」
「あぁ?」
「お前らにやる金はないな」
「はぁ?てめぇ死にてぇのか…?」
バキバキと指と首を鳴らし、内田がこちらへ向かってくる。
どうやら怒らせてしまったようだ。
「残念。俺は寿命で死ぬのが夢でね」
「そうか、そうか。じゃ、夢破れるだな」
頬に痛みを感る。
内田が僕を殴ったようだった。
見ると内田はにんまりと笑っている。
そんなんでこの俺に勝てるのか、と。
僕も負けじと、顔面に拳を入れた。鼻血を出しながら、内田がよろめく。
「"カゲツキ"のくせに生意気じゃねえか!」
内田は僕の鳩尾に蹴りを入れる。
不様に僕は転がり、壁にぶつかった。
「うっ…うげぇ…」
口を拭うと血がついてた。
今ので口を切ったらしい。
畜生…"カゲ"、"カゲ"ってうるせぇんだよ…!
壁を支えに立ち上がった。
前を見ると、ピンピンしてる内田がこちらを見ている。
その後ろには怖いもの見たさで来た生徒たち。
ここにいる全員が敵に思えた。
「度胸はあるな。だけど実力が伴ってないぜ?」
下品に内田は笑った。
クソ…。
僕は下唇を噛んだ。
「まぁこのへんで今日は許してやるよ」
内田はパンパンとわざとらしく手を払った。
「けど、もし今日みたいなことがあったら…これだけじゃすまねえぞ」
目をギラリと光らせて、玄関を出ていった。
その後を追うように、他の生徒たちも下校を始める。
しかし、誰も僕の傍にはこようとしない。
だって、僕には"カゲ"がついているから。